ダーマペン

治療の概要:
ダーマペンによる施術はmicroneedling(マイクロニードリング)と呼ばれる治療法の一種です。マイクロニードリングとは文字通り極小の針を使用して皮膚に小さな穴を開ける施術であり、約30年前から顔の小じわやニキビ跡に対して行われており、その効果や安全性が確立されているものです。針が短いものは家庭用の美容機器として販売されているものもありますが、ダーマペンなどの医療用の機器は深い層にまで穴を開けることが出来るため、より高い効果が期待できます。

期待される効果:
ダーマペンによる施術によって期待される効果は大きく2つあります。

1つ目は針によって作られた微小な傷が皮膚の自己修復のメカニズムを誘導することによる効果です。これらの一連の流れは創傷治癒過程と呼ばれ、炎症期増殖期リモデリング期の3つの段階があります。

・炎症期
炎症期は針が皮膚を刺し、細い血管を破裂させ、血液が周囲の組織に入り込むことから始まります。血液中の血小板や白血球の一種である好中球が組織の中に移動し、形質転換成長因子(TGF-α, TGF-β)血小板由来成長因子(PDGF)線維芽細胞成長因子(FGF)などの様々な成長因子を放出し創傷治癒過程を開始させます。その後血中の単球が損傷部位に侵入し組織マクロファージに分化します。炎症期の重要な働きは傷から侵入した微生物と戦うことですが、もう1つの同様に重要な機能は、サイトカインと成長因子(例えばIL-1、IL-6、血管内皮成長因子(VEGF)、腫瘍壊死因子(TNF)、TGF-β)の放出であり、これらは皮膚修復の第2段階である増殖期の開始に重要です。

・増殖期
組織の増殖期は約5日後から8週間続来ます。主にマクロファージと線維芽細胞、および(新たな血管を作る前段階となる)内皮細胞が集まって皮膚の損傷部位を覆い尽くし、これらの細胞から産生されたフィブロネクチンⅢ型コラーゲンが細胞間に仮の足場を作成し、上皮細胞の接着、移動、増殖を助け再上皮化が起こります。

・リモデリング期(成熟期)
上皮化が完了する(傷が塞がる)と細胞の増殖が停止し、リモデリング期に入ります。この段階で修復部位での新しい成分の合成とプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)による分解がバランスよく生じることで新しい皮膚組織へと再生されることになります。最終的に新しく組織を再生させるために必要な栄養を供給していた血管が退縮し、線維芽細胞が筋線維芽細胞に分化することで損傷部位を収縮させ、細胞間を埋めていた仮の足場であるⅢ型コラーゲンがⅠ型コラーゲンに置き換わることで恒久的な細胞間マトリックス(※1)が形成されます。

ー> もっとやさしい創傷治癒過程について <ー

1ヶ月間隔で4回の施術を行った場合、治療後6ヶ月時点でコラーゲンとエラスチンの量が400%増加していたという報告もあります。[1]

また血管が傷つくほどの深い穿刺を行わない場合にも、皮膚に小さな穴が開くことでその穴を通ってイオンが移動し、微小な電流が流れることで皮下組織の電位が変化します。その変化が引き金となり細胞内の電位も変化しますが、この電位の変化は遺伝子の発現に影響を与え、さまざまなタンパク質、成長因子が細胞から外部に放出され、損傷部位への線維芽細胞の移動、ひいてはコラーゲンの産生が引き起こされるというメカニズムも提唱されています。[2]

2つ目は通常では真皮層にまで到達させることの出来ない薬剤を効果的に導入することが出来るという効果です。正常な皮膚では表皮の顆粒細胞層にtight junctionと言われるバリアがあり(図2)、バリアを通過し真皮層や皮下に浸透出来る化合物の分子量は500以下と言われています。(図3)[3]しかしダーマペンを使用することで皮膚に微小な穴がたくさん開き、通常では浸透させることの出来ない大きな分子量を持つ薬品栄養素成長因子、および血小板を豊富に含む血漿治療薬などを効果的導入することが可能となります

治療の対象:
マイクロニードルは以下の様々な症状での使用が報告されています。

  • シワ、額、目のまわり、ほうれい線、口元などのシワに対してコラーゲンの産生が増加することで、皮膚はふっくらとし、厚みが増し、弾力性が増します[3]。
  • 皮膚のたるみ(顔、腕、腹部、首、大腿、乳房、臀部)[4]
  • 萎縮性瘢痕(ニキビ跡)

Majidらの報告[5]では、グレード2および3のローリング瘢痕やボックスカー瘢痕の患者の88.7%に良好~優れた反応がみられ、凹みのある瘢痕では中程度の反応がみられました。グレード4の瘢痕、グレード2、グレード3の線状瘢痕や深い凹みのある瘢痕では、マイクロニードルでは良好な反応が得られないため、外科的修正が必要となります。

  • 妊娠線
  • セルライト
  • メソセラピーとしての使用

治療の対象とならない状態

  • 活動性のにきびまたは酒さ
  • 湿疹や乾癬などの慢性皮膚疾患の方
  • 血液凝固障害およびアスピリン、ワルファリン、ヘパリンなどの抗凝固療法を受けている方
  • 皮膚悪性腫瘍、日光角化症
  • ケロイド傾向のある方
  • 妊娠
  • 口唇ヘルペスや疣贅などの活動性の二次性細菌・ウイルス感染症
  • 顔面手術を受けられた方

利点

  • レーザーやディープピーリングが禁忌であるあらゆるタイプの皮膚や身体部位に使用できます。
  • 他の治療法に比べ、副作用が少なく、ダウンタイムが短いため、使い勝手がよく、費用対効果の高い施術です。
  • 痛みが軽度であり苦痛が少ないです。
  • 炎症後色素沈着のリスクが少ないと言われています。
  • レーザーリサーフェシング治療を受けたことのある方にも施術可能です。

デメリット

  • 複数回の施術が必要で、最終的な結果が得られるまでの期間が長いこと。
  • 重度のボックスカー型やアイスピック型のような瘢痕には反応が鈍いです。
  • 中等度や重度のシワは反応が少ないです。

※1:細胞間マトリックスとは細胞と細胞の隙間を埋めている物質であり、ヒアルロン酸、コラーゲン、エラスチンなどが主な構成要素になります。これらは真皮層で主に線維芽細胞から産生され、組織の立体構造の維持に重要な役割を果たしています。細胞間マトリックスが増加すると皮膚にハリや潤いが認められ、小じわやたるみの改善効果が得られます。

[1]Aust MC, Fernandes D, Kolokythas P, Kaplan HM, Vogt PM. Percutaneous collagen induction therapy: An alternative treatment for scars, wrinkles, and skin laxity. Plast Reconstr Surg 2008;121:1421‐9.

[2]Liebl H, Kloth LC. Skin cell proliferation stimulated by microneedles. J Am Coll Clin Wound Spec 2012;4:2‐6.

[3]Nair PA, Arora TH. Microneedling using dermaroller: A means of collagen induction therapy. GMJ 2014;69:24-7.

[4]Fernandes D. Minimally invasive percutaneous collagen induction. Oral Maxillofac Surg Clin North Am 2005;17:51-63, vi.

[5]Majid I. Microneedling therapy in atrophic facial scars: An objective assessment. J Cutan Aesthet Surg 2009;2:26-30.